ABC分析の落とし穴 ②
SERIESシリーズ記事ABC分析
2016年6月10日
2016年7月22日
今回はこんなお話
ABC分析で失敗しがちなこと
視点を広げてみよう。
多くの要素を関連付けて考えよう
まえがき
さて、前回の続きです。
落とし穴があるとか言っておきながら、わざわざ手間暇をかけて説明してきたのですから、当然使えないわけではありません。
今回は、お手軽な分析方法ABC分析をお手軽かつ効果的に使うためのお話です。
売上構成比の罠
では、さっそく例によって、下の表をご覧ください。
売上構成比
商品 | 単価 | 売上数 | 売上 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|---|---|---|
A | ¥1,000 | 924 | ¥924,000 | 21.0% | 21.0% |
G | ¥1,200 | 734 | ¥880,800 | 20.0% | 40.9% |
O | ¥980 | 811 | ¥794,780 | 18.0% | 59.0% |
I | ¥860 | 645 | ¥554,700 | 12.6% | 71.5% |
M | ¥650 | 578 | ¥375,700 | 8.5% | 80.1% |
K | ¥490 | 299 | ¥146,510 | 3.3% | 83.4% |
H | ¥500 | 220 | ¥110,000 | 2.5% | 85.9% |
E | ¥670 | 147 | ¥98,490 | 2.2% | 88.1% |
J | ¥300 | 325 | ¥97,500 | 2.2% | 90.3% |
C | ¥380 | 249 | ¥94,620 | 2.1% | 92.5% |
L | ¥250 | 369 | ¥92,250 | 2.1% | 94.6% |
N | ¥1,100 | 65 | ¥71,500 | 1.6% | 96.2% |
B | ¥1,500 | 46 | ¥69,000 | 1.6% | 97.8% |
D | ¥500 | 120 | ¥60,000 | 1.4% | 99.1% |
F | ¥400 | 98 | ¥39,200 | 0.9% | 100.0% |
上の表が前回にもご覧いただいたABC分析です。
ふむふむ
粗利構成比
そして下の表は構成比を売上ではなく粗利で計算したものです。
ですから「原価」の項目が表に追加されています。
商品 | 単価 | 原価 | 売上数 | 粗利 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|---|---|---|---|
A | ¥1,000 | ¥280 | 924 | ¥665,280 | 24.9% | 24.9% |
G | ¥1,200 | ¥650 | 734 | ¥403,700 | 15.1% | 40.0% |
O | ¥980 | ¥320 | 811 | ¥535,260 | 20.0% | 60.0% |
I | ¥860 | ¥230 | 645 | ¥406,350 | 15.2% | 75.2% |
M | ¥650 | ¥410 | 578 | ¥138,720 | 5.2% | 80.4% |
K | ¥490 | ¥190 | 299 | ¥89,700 | 3.4% | 83.7% |
H | ¥500 | ¥174 | 220 | ¥71,720 | 2.7% | 86.4% |
E | ¥670 | ¥230 | 147 | ¥64,680 | 2.4% | 88.8% |
J | ¥300 | ¥190 | 325 | ¥35,750 | 1.3% | 90.2% |
C | ¥380 | ¥120 | 249 | ¥64,740 | 2.4% | 92.6% |
L | ¥250 | ¥120 | 369 | ¥47,970 | 1.8% | 94.4% |
N | ¥1,100 | ¥540 | 65 | ¥36,400 | 1.4% | 95.7% |
B | ¥1,500 | ¥400 | 46 | ¥50,600 | 1.9% | 97.6% |
D | ¥500 | ¥200 | 120 | ¥36,000 | 1.3% | 99.0% |
F | ¥400 | ¥120 | 98 | ¥27,440 | 1.0% | 100.0% |
原価は文字通り商品を提供するためにかかったコスト。
粗利は売上から原価を引いたもの。
当然ながら、たとえ売値が高くとも原価も高ければ粗利は少なくなる。
粗利で構成比を計算してあるってことは…
つまり、その商品があげた売上じゃなくて、その商品で得た利益で貢献度を見るってことですね?
おう。そういうことだな!
よくわかったな、とびぃ!
いやいや、なんでわからなかったおまえに上から目線で褒められなきゃなんねんだよ!?
比べてみると・・・
では、売上構成比と粗利構成比を比べて見てみましょう
左の赤い枠の中が売上高とその構成比。そして右側の青い枠の中が、前回は計算していなかった粗利とその構成比の欄です。
商品 |
---|
A |
G |
O |
I |
M |
K |
H |
E |
J |
C |
L |
N |
B |
D |
F |
売上高 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥924,000 | 21.0% | 21.0% |
¥880,800 | 20.0% | 40.9% |
¥794,780 | 18.0% | 59.0% |
¥554,700 | 12.6% | 71.5% |
¥375,700 | 8.5% | 80.1% |
¥146,510 | 3.3% | 83.4% |
¥110,000 | 2.5% | 85.9% |
¥98,490 | 2.2% | 88.1% |
¥97,500 | 2.2% | 90.3% |
¥94,620 | 2.1% | 92.5% |
¥92,250 | 2.1% | 94.6% |
¥71,500 | 1.6% | 96.2% |
¥69,000 | 1.6% | 97.8% |
¥60,000 | 1.4% | 99.1% |
¥39,200 | 0.9% | 100.0% |
粗利 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥665,280 | 24.9% | 24.9% |
¥403,700 | 15.1% | 40.0% |
¥535,260 | 20.0% | 60.0% |
¥406,350 | 15.2% | 75.2% |
¥138,720 | 5.2% | 80.4% |
¥89,700 | 3.4% | 83.7% |
¥71,720 | 2.7% | 86.4% |
¥64,680 | 2.4% | 88.8% |
¥35,750 | 1.3% | 90.2% |
¥64,740 | 2.4% | 92.6% |
¥47,970 | 1.8% | 94.4% |
¥36,400 | 1.4% | 95.7% |
¥50,600 | 1.9% | 97.6% |
¥36,000 | 1.3% | 99.0% |
¥27,440 | 1.0% | 100.0% |
さて、お二人さん。なにか気づいた点などありませんか?
うーん……
え~っと………
まず…売上構成比と粗利構成比で順位が変わってしまう商品がありますね……
あとアレだ!
うりあげこうせいひの数字とあらりこうせいひの数字に差がある商品がある!
ほんとだ!
それって、売上の数字は多くても実際にはそんなに利益になってない商品や、逆に売上の数字は少なくても利益は多い商品ってことじゃね?!
スバラシイ。
まさにその通りです。
(素晴らしいが棒読みだった……)
これが売上構成比だけを見ていると陥ってしまう罠です。
データを掘り下げて考える
とびぃさんが言った通り、売上構成比が高くても粗利構成比が低いメニューは、人気はあるけれど原価が高く利益が少ないメニューですよね。
目玉商品かもしれませんね。
そうですね。
意図的に目玉商品としてラインナップして、他の商品で利益を出しているのならば、想定の範囲内ということになります。
意図的でなければちょっと太っ腹が過ぎた商品ということになりますので、ちょっと考えなければいけないかもしれませんが。
んじゃ、逆に売上構成比はそこまでではないけど粗利構成比が高い商品は、密かに儲けるためのボッタクリ商品ってことですか!?
ボッタクリっておまえ…
そうですね~。ボッタクリは言い過ぎですが、そういった商品はなぜ売れないのかを考えましょう。
利益を大きくとりすぎていてお値打ち感がないから売れないのか?
それとも通好みでマニアックな商品なのか?はたまた単純な認知度の問題なのか?
その理由によって判断はわかれるところです。
でも、粗利構成比が高い商品はできればクビにせずに残したいっすよね?
せっかく利益がとれるんですもん。
そうですね。売上・粗利ともにBグループに入るくらいの構成比ならば、まだまだ望みが持てる、うまくすれば化ける可能性のある商品と言えますね。
売上構成比だけを見ていたら気づけなかったっすねコレ。
そうですね~。そこにデータの怖さがあります。
普段は原価をすごく気にしている人でさえ、データとして売上構成比だけを見せられると、ついついそれだけで納得してしまったりします。
データは、普段は明確に見えないものを見える化してくれます。しかし見えたことに安心して、まだ見えていないものを忘れたりしてしまうのが人間なんですよね。
ですから、データを扱うときには、見える化できていない部分にこそ注目しなければいけません。
-
ここまでのまとめ
-
- 売上構成比だけではなく粗利構成比にも注目しよう。
- 両者の数値の差異が大きい商品には特に注目しよう。
- そして、なぜそうなのか?をしっかり考えよう。
分析シミュレーション
それでは、次は凡例をもとに分析をシミュレーションしてみましょう。
まず、前回に説明したとおり、グループ分けしてから個別に見ていきましょう。
- 構成比の累計がが0~70%までがAグループ
- 70%~90%がBグループ
- それ以上はCグループ
凡例の分析 Aグループ
商品 |
---|
A |
G |
O |
I |
売上高 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥924,000 | 21.0% | 21.0% |
¥880,800 | 20.0% | 40.9% |
¥794,780 | 18.0% | 59.0% |
¥554,700 | 12.6% | 71.5% |
粗利 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥665,280 | 24.9% | 24.9% |
¥403,700 | 15.1% | 40.0% |
¥535,260 | 20.0% | 60.0% |
¥406,350 | 15.2% | 75.2% |
「G」はさっき言ったアレですね。
売上構成比は20%もあるのに、粗利構成比は「O」どころか「I」よりも低いですよね。
売上は多いけど、粗利が低い、目玉商品かな?
そうですね。
原価率は高めですが、他の商品でしっかり利益が出せていますしね。集客目的の目玉商品と見ていいでしょう。
あと、あれだ!
逆に「O」も「I」も売上構成比より粗利構成比が高いボッタクリ商品ですね!
いや…だからボッタクリじゃねえって。
はい…ボッタクリではないですね…
さておき、特に「I」に関しては、売上構成比だけ見ていればギリギリでAグループでしたが、粗利構成比と合わせて見れば、原価は低いのにそこそこ人気があるとても良い商品だとわかりましたね。
確かに「I」のイメージがガラっと変わりました。
凡例の分析 Bグループ
商品 |
---|
M |
K |
H |
E |
J |
売上高 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥375,700 | 8.5% | 80.1% |
¥146,510 | 3.3% | 83.4% |
¥110,000 | 2.5% | 85.9% |
¥98,490 | 2.2% | 88.1% |
¥97,500 | 2.2% | 90.3% |
粗利 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥138,720 | 5.2% | 80.4% |
¥89,700 | 3.4% | 83.7% |
¥71,720 | 2.7% | 86.4% |
¥64,680 | 2.4% | 88.8% |
¥35,750 | 1.3% | 90.2% |
さてお次はBグループですね。
いかがですか?
オレわかったぜ!
「M」は粗利構成比が売上に対して低い!目玉商品だな!
……売上構成比が10%にも及ばない商品を目玉商品と呼ぶのはちょっと厳しいですね……単純に利益の薄い商品というだけです。
同様に「J」も売上に対する貢献も粗利も低いので「M」と合わせてクビ候補になります。
「M」は売上構成比だけだとBグループの中でダントツトップだったのに、ほんとはすっげえ割の悪い商品だったのが面白いっすね。
はい。そうですね。
思考のもとにするデータが1つ増えただけで違うものが見えてきて面白いものですね。
凡例の分析 Cグループ
商品 |
---|
C |
L |
N |
B |
D |
F |
売上高 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥94,620 | 2.1% | 92.5% |
¥92,250 | 2.1% | 94.6% |
¥71,500 | 1.6% | 96.2% |
¥69,000 | 1.6% | 97.8% |
¥60,000 | 1.4% | 99.1% |
¥39,200 | 0.9% | 100.0% |
粗利 | 構成比 | 累計 |
---|---|---|
¥64,740 | 2.4% | 92.6% |
¥47,970 | 1.8% | 94.4% |
¥36,400 | 1.4% | 95.7% |
¥50,600 | 1.9% | 97.6% |
¥36,000 | 1.3% | 99.0% |
¥27,440 | 1.0% | 100.0% |
さて、最後にCグループですね。
やっぱりコイツらはクビっすかね?
売上にも利益にもぜっっんぜん貢献してないってことですもんね!
そうですね。基本的にはそれでもよいのですが…
ですが…?
……が?
まず、メニューを無くすということは、たいていの場合は新しいメニューを増やすことになりますよね。
一度に多数のメニューの刷新をすると作業効率が急激に落ちて、提供時間が長くなったり商品のクオリティに影響を及ぼします。
マニュアルの徹底したフランチャイズチェーン店でもなければね。
たしかに!
あと、売上数の少ない商品が存在するデメリットを思い出してください。
え~っと…食材の不良在庫やロスの原因……
あとは、調理することが少ないから作業効率が落ちる!でしたよね!
そう。そのうち作業効率に関してはともかくとします。
不良在庫とロスに関してですが、たとえあまりオーダーされない商品でも、材料がどのみち他のメニューに使用するものだったらどうでしょう?
なるほど。それだったらそのメニューの存在が不良在庫やロスの原因にはならないってことですね!?
そう。
つまり、Cグループの中からまず優先的に削除すべきは、その商品に使用する材料が他の商品には使用されていないものです。
ザックリ言うと、明らかにデメリットが大きいものはどれなのか?というお話です。
ふむふむ。なるほど。
たしかにデメリットが少ないのなら、メニューを無くすのも増やすのもリスクになりますもんね。
はい。その通り。売上にも利益にも貢献度が低いとは言え、商品を無くすのも増やす手間もリスクとなります。
無くすリスクに関して、極端な例になりますが、いつもたくさんの商品を頼む、つまり客単価の高い常連さんのお気に入りのメニューだったりしたらどうでしょう?
あ、もしかしたらその常連さんの足が遠のくかも!?
ですね。
まぁ、極端すぎる例なので参考にはならないかもしれませんが、ようはCグループだからといって単純に「なくそう!」とは考えないようにということです。
そして増やすリスクに関しては言うまでもありませんね。
作業効率が落ちるし…現場への周知やマニュアルの徹底は大変だし、新しいメニュー開発には時間もお金もかかりますもんね!
はい。その通りです。
というわけで、一通りABC分析をシミュレーションしてみましたがどうでしたか?
面白かったっす!
データの罠みたいなのも見れたし。
でも最後の最後はデータだけじゃなくて、材料やお客さんのことを考えたりアナログだったりするのな。
そう。それもまた分析の面白さと言えますね。
-
今回のまとめ
-
- 売上構成比だけではなく粗利構成比にも注目する。
- 売上構成比と粗利構成比を比較する。
- 両者の数値の差異が大きい商品には特に注意。
- データの意味を考えて判断する。
- 最終的にはデータだけに頼らず多角的に考える。
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